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福岡家庭裁判所 平成元年(少ロ)1号 決定

少年 M・M(昭45.9.23生)

主文

本件申立を棄却する。

理由

第一申立の趣旨及び理由

別紙「即時抗告申立書」と題する書面記載のとおり。

第二当裁判所の判断

1  申立人らの本件申立の要旨は、帰するところ、

(一)  少年審判規則32条は、「裁判官は、審判の公平について疑いを生ずべき事由があると思料するときは、職務の執行を避けなければならない。」と規定しているが、少年法、少年審判規則は、右回避以外に除斥、忌避の規定を置いていない。しかし、刑事訴訟法及び同規則の規定する除斥、忌避の規定は、憲法37条の保障する「被告人の公平な裁判を受ける権利」の一内容として制定されている。そして、少年審判においても、憲法37条1項の保障する公平な裁判を受ける権利の趣旨、より広くは憲法31条の保障する適正手続きの趣旨は、当然に適用されるべきであるから、右回避規定は、実質的には、刑事訴訟法に規定する除斥や忌避の制度を包含しているものと解するべきである。

そうすると、少年審判規則32条に「審判の公平について疑いを生ずべき事由」があるとは、当然に刑事訴訟法20条の除斥の事由及び同法21条の忌避の事由がある場合を含み、当事者(少年、保護者及び付添人)からの申立権が認められる趣旨と解すべきである。かかる見解のもとで本件忌避の申立をしたところ、原裁判官は、これを「裁判官回避の勧告と解して職権を発動しない」との見解を示したが、右措置は忌避の手続きが少年法に規定がないことを理由として本件忌避の申立を認めないものであるから、刑事訴訟法24条1項後段の「裁判所の規則で定める手続きに違反してされた忌避の申立を却下する場合」の簡易却下決定に該当する。そこで、同法25条(右即時抗告申立書の1丁裏11行目に「同条」とあるのは、「同法25条」の趣旨と解される。)を適用ないし準用して本件即時抗告に及んだ。(二)原裁判官が本件保護事件につきなした審判進行に関する措置には、審判の公平について疑いを生ずべき事由が十分に認められるから、本件忌避の申立を相当と認めるべきであるというにある。

2  そこで、検討するに、少年法及び少年審判規則には、刑事訴訟法20条以下に規定する除斥及び忌避に相当する規定はなく、僅かに少年審判規則32条が、「裁判官は、審判の公平について疑いを生ずると思料するときは、職務の執行を避けなければならない。」と回避に関して規定するに止まる。しかしながら、少年審判手続きは刑事手続きと性質が異なり、少年保護事件における保護処分が専ら少年の健全な育成のための処分であるとはいえ、多かれすくなかれ、なんらかの自由の制限を伴うものであって、人権の制限にわたるものであることは否定しがたい。したがって、憲法31条の保障する法の適正手続きの趣旨及び憲法37条1項の公平な裁判所の裁判を受ける権利の保障の趣旨は、少年保護事件においても推及されるべきものと解する。憲法の前記各法条及び少年法1条の趣旨に照らすと、少年審判規則32条は、これらの除斥、忌避及び回避をすべて包含する規定としておかれたものと解するのが相当である。したがって、裁判官に審判の公平について疑いを生ずべき事由のあるときは、裁判官が自ら回避しなければならないことはもとより、少年側においても、そのことを理由にして裁判官が職務の執行を避けること、すなわち回避の措置を求める申立をすることを許したものと解するのが相当である。

3  ところで、一件記録によれば、本件保護事件は、本件保護事件の少年を含む9名の少年らが、平成元年8月15日、2人の少女を強姦(うち1人については強姦致傷)したという事案であるところ、本件少年は、平成元年10月4日逮捕され、同月6日から同月25日まで勾留され、同日から観護措置の決定を受け(更新されて同年11月21日まで観護措置期間が継続)たこと、同年10月26日本件裁判官は調査命令を発し、同月27日審判期日を同年11月17日とする旨の指定したこと、同月14日弁護士○○及び同○○が付添人として選任された旨の届出がなされたこと、同月16日付添人○○は辞任し、同月17日弁護士○○が付添人に選任された旨の届出がなされたこと、同月16日付添人○○は、本件裁判官に面談し、審判期日の延期を申し入れたこと、同月17日審判期日が開かれ、付添人らから、本件忌避の申立がなされたこと、原裁判官は付添人等の右申立に対しこれを理由がないものとして、職権を発動しない旨を告げ、審判手続きを行ったこと、以上の各事実が認められる。

4  そこで、検討するに「審判の公平に疑いを生じさせる事情」とは当該事件の手続外の要因により、当裁判官によってはその事件について公平で客観性のある審判を期待することができない事由をいうものであって、その手続き内における審判の方法、態度などは、それがもっぱら訴訟手続き外の要因に左右されて行われたものと認めるべき特段の事由が存する場合でないかぎりは回避の原因とはなしえないというべきところ、これを本件についてみてみるに、付添人らの回避の職権発動を求める理由として縷々主張するところは、原裁判官の手続き内の審判の進行方法に関する措置を論難するものであって、原裁判官に審判の公平について疑いを生ずべき事由とはなし難く、その他記録を精査してもその事由の存在を窺わせる徴憑は認められない。

5  よって、本件準抗告の申立ては理由がないので、刑事訴訟法432条、426条1項によりこれを棄却すべく、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畑地昭祖 裁判官 本田恭一 山口芳子)

〔参考1〕即時抗告申立書

即時抗告申立書

少年 M・M

右少年に対する強姦、強姦致傷保護事件について、1989年11月17日、福岡家庭裁判所○○裁判官がした忌避申立てに対する簡易却下決定を取り消し、同裁判官の忌避を認めるとの決定を求める。

1989年11月18日

右少年付添人

弁護士 ○○

同 ○○

福岡家庭裁判所 御中

第一忌避申立に対する簡易却下

頭書少年の付添人らは1989年11月17日、福岡家庭裁判所に対して、同裁判所○○裁判官に対する忌避申立をなした。

これに対し、同日頭書少年の審判期日において、同裁判官より「右忌避申立は、裁判官回避の職権発動の申立と見なして、職権を発動しない」との回答があった。

右通知は、前記忌避申立を、同申立手続が少年法に規定がないことを理由としてこれを認めないとしたものであるから、刑事訴訟法24条1項後段の「裁判所の規則で定める手続きに違反してされた忌避の申立を却下する場合」の簡易却下決定に該当する。

よって同条を適用または準用して、本申立をする。

第二「忌避申立権」について

少年審判規則32条は、「裁判官は、審判の公平に疑いを生ずべき事由があると思料するときは、職務の執行を避けなければならない。」と規定している。

少年法、少年審判規則は、右回避以外に除斥や忌避の規定を置いていない。しかし、刑事訴訟法及び刑事訴訟規則の規定する除斥、忌避及び回避の規定は、いずれも憲法37条の保障する「被告人の公平な裁判を受ける権利」の一内容として制定されている。そして、少年審判においても、憲法37条1項の保障する公平な裁判を受ける権利の趣旨、より広くは憲法31条の保障する適性手続の趣旨は、当然に適用されるべきであるから、右回避規定は、実質的には、刑事訴訟法に規定する除斥や忌避の制度を包含しているのである。

この点については、すでに、「保護処分(法14条)は少年の健全な育成のための処分であるとはいえ、少年院送致はもちろん、救護院・養護施設への送致や保護観察にしても、多かれ少なかれ何らかの自由の制限を伴うものであって、人権の制限に渡るものであることは否定しがたい。従って、憲法31条の保障する法の適性手続、少なくともその趣旨は、少年保護事件において保護処分を言渡す場合にも推及されるべきは当然だといわなければならない(最高裁判所第一小法廷昭和58年10月26日決定・裁判官団藤重光の補足意見)と述べられている。また、同補足意見は更に、「憲法37条2項の趣旨は、適性手続の内容の一部をなすものとして、少年保護事件にも実質的に推及されるべきものと考える。」と述べているものであって、憲法37条の刑事被告人の人権もまた、憲法31条の内容の一部として、保護事件の性質に反しないかぎりにおいて、少年にも保障されるものと解すべきなのである。

仮に、審判に不公正な疑いを抱かしめる事由があるにもかかわらず、少年審判規則32条に忌避の申立ての趣旨を読み込むことができないとすれば、その場合当該裁判官が自ら回避を望まなければ、以後は不当な審判を受ける以外になくなるのであって、これではひとり少年のみが憲法37条の保障を受けえないということになる。「公平な裁判を受ける権利」は「保護事件の性質に反しない」どころか、まさに保護事件においてこそ要求されなければならない。

このように、少年審判規則の回避規定は、刑事訴訟法に規定する除斥や忌避の制度を包含するものと解すべきであるから、右規定の実質的内容としては、第一に、「審判の公平について疑いを生ずべき事由がある」場合とは、当然に刑事訴訟法20条の除斥の事由及び同法21条の忌避の事由がある場合を含むのであり、第2に、当事者(少年、保護者及び付添人)からの申立権が認められる趣旨であると解すべきである。

第1の点については、有力な学説は、「『審判の公平について疑いを生ずべき事由』とは、容観的に見て、刑事訴訟法に定める除斥原因・忌避原因に準ずる事情がある場合と解してよいであろう。」と述べている(団藤・森田編、ポケット注釈「少年法」215頁)。

第2の点については、有力な実務上の見解は、「少年保護付添人から忌避の申立てができるかどうかについては、何等の規定もないが、『避けなければならない』との規則第32条の趣旨からして、できるものと解される」としている(東京家庭裁判所少年課長豊田晃編著「実務少年法」251頁)。従って、付添人らは、裁判官について、次項以下に詳細に述べるとおり「不公平な裁判をする虞」(刑事訴訟法21条1項)があり、「審判の公平について疑いを生ずべき事由」があるので、ここに付添人らの少年法上認められた権利として忌避の申立てをするものである。

第三審判の公平について疑いを生ずべき事由について

一 裁判官には審判の公平について疑いを生ずべき事由があるので、以下これを列挙する。

二 審判の進行に関する問題点

1 そもそも、本件は本件少年を含む9人の少年らが2人の少女を強姦したという事実である。そして本件少年らは同じ○○町の元暴走族仲間であり、本件犯行は、この少年らの集団心理に生起せられたものというべきである。

したがって、本件においては、1つには示談をどうするかという点においてまた、他方において、右の犯行の背景となった少年らの集団を解体し、少年らの環境を調整するという点においても、集団としての処理、調整が必要である。本件においては、右の観点から付添人らは相互に協力し、示談及び集団的環境調整の方策をとるべく努力を開始した。ところが本件においては付添人が選任されたのが平成元年11月14日であり、少年らの内の最初の審判の予定日(11月17日)には、右の活動の成果が十分に期待できない状態であった。そこで、右の観点から付添人らは平成元年11月16日午後4時頃本件審判官に面会し、その旨を申し述べ、右観点から、11月17日に予定されている少年M・Mの審判において早急に保護処分を決定するのではなく、付添人らの右の諸活動(示談及び集団的環境調整)の結果を踏まえた上で保護処分を決定するように申し入れた。具体的には11月17日の段階では右の示談などが十分できないから、右の諸活動に一定のメドがつき、他の少年らの審判の多数が予定されている11月24日ころ再度審判を開くように申し入れた。

2 しかるにこれに対し、審判官は当初、少年審判は個別事件であるから付添人らが複数で面会を求めてもこれに面会することはできないと面会を拒み、付添人らの抗議によって面会し、右の点について付添人らが審判官に申し入れているのにも、以下のような少年法の理念とはおよそかけ離れた主張を繰り返し、少年の要保護性を重視する少年法を無視しているかのような態度を一貫してとり続けた。

審判官は、あくまで11月17日の審判において少年M・Mの保護処分を決定するとのことであったが、その理由として〈1〉「示談などが間に合わないならば、それで仕方がない。審判時における状況で判断せざるを得ない。」〈2〉「少年の観護措置の期間が11月21日までであるのでそれまでの間に再度審判を開くことはできない。」〈3〉「本件において、観護措置期間終了後、少年を一旦保護者宅に返し、在宅とした上で再度審判を開くことは考えていない。」〈4〉「観護措置には少年の身柄確保の目的もあり、本件のような重大事件においては少年の身柄を鑑別所から出すことはできない。」〈5〉「本件のような重大事案においては、被害弁償をしても処分には影響がない。」〈6〉「環境調整は保護処分の後でも可能であり、環境調整の前に処分が決定してもやむをえない。」などを主張し、さらに付添人らが事情を説明しようとするのに対し「私はまだ十分記録を検討していないから、明日の審判のために記録を検討する必要があり、付添人らとこれ以上話し合うつもりはない。」などとして逃げるように席を立った。

3 しかし、〈1〉及び〈5〉については、本件のような特に被害者の被害感情が重視される非行事実に関して、示談が現に進行中であり、かつ1週間程度でそのめどがつくと言う状況にあるのに、示談を全く考慮しないで保護処分を決定できるものであろうか。非行事実が重大であるから、被害弁償は問題とならないというのでは、被害の可及的な回復をしようとする少年及び保護者の努力を全く無にするものであり、かかる処分が少年の今後の更生にとって障害となろうことは疑いがない。

また〈2〉、〈3〉及び〈4〉については、少年法の理念を没却し、観護措置の制度の理解を歪曲しているものとしか言い様がない。そもそも少年事件においてはできるだけ身柄の抱束を避け、どうしても身柄の拘束を必要とする場合であっても少年に対する悪影響を避けるように努力することが必要である(少年法43条等)。また観護措置は本来少年の身柄確保のための制度ではなく、少年の保護処分を決定するための調査、観察を行うための制度である。しかるに本件審判官は観護措置をあたかも刑事訴訟における勾留と同様の制度と捉え、かたくなに少年の身柄を解放することを拒んでいる。そして、少年の身柄を解放しないことを前提として保護処分を決定することがあたかも当然であるという態度をかたくなに続けている。結局本件審判官の右の態度は「本件の如く重大犯罪については少年は逆送ないし少年院送致以外はありえない」という結論を前提として、審判に臨もうというものであって、少年の要保護性を真剣に検討するという少年審判官としての当然の責務を忘却したものと言わざるをえない。本件審判官のかかる傾向は前記〈6〉の発言に如実に現れている。

4 しかもかかる一連の発言は審判官自身自認するとおり「記録を十分に検討していない」状態で為されており、この点などはまさに本件審判官の「始めに少年院送致ありき」の態度のもっとも典型的な徴表である。

5 本件簡易却下をした審判期日において、同裁判官は審判を続行することとし、11月21日午前10時に審判期日の指定をした。頭書少年の保護事件は結局、1回の審判では処分の決定に至らなかった。これは前記の通りの事案の性質上当然のことであると考えられる。また、新たな審判期日を確保しようと思えば、それができたことが明らかにもなった。結果として裁判官自身も認める通りの続行の必要があり、それが可能であったのに、事前には観護措置期間終了の切迫を理由に続行をかたくなに拒否していたのは、やはり予断を持っていたとしか考えられない。

三 以上の審判官の態度は少年法の理念を没却し、憲法31条、32条精神を忘却したものであって、本件審判官については、刑事訴訟法21条1項にいう「不公平な裁判をするおそれ」少年審判規則32条にいう「審判の公平に疑いを生ずべき事由」が十分に認められる。

第四結論

よって付添人らは本件抗告を行い、本件裁判官の忌避を認めるとの決定を求める。

〔参考2〕忌避申立書

忌避申立書

少年 M・M

右少年に対する強姦、強姦致傷保護事件について、審判の公正について疑いがあるので、付添人らは、裁判官に対し、忌避を申立てる。

1989年11月17日

右少年付添人

弁護士○○

同○○

福岡家庭裁判所 御中

第一「忌避申立権」について

少年審判規則32条は、「裁判官は、審判の公平に疑いを生ずべき事由があると思料するときは、職務の執行を避けなければならない。」と規定している。

少年法、少年審判規則は、右回避以外に除斥や忌避の規定を置いていない。しかし、刑事訴訟法及び刑事訴訟規則の規定する除斥、忌避及び回避の規定は、いずれも憲法37条の保障する「被告人の公平な裁判を受ける権利」の一内容として制定されている。そして、少年審判においても、憲法37条1項の保障する公平な裁判を受ける権利の趣旨、より広くは憲法31条の保障する適性手続の趣旨は、当然に適用されるべきであるから、右回避規定は、実質的には、刑事訴訟法に規定する除斥や忌避の制度を包含しているのである。

この点については、すでに、「保護処分(法14条)は少年の健全な育成のための処分であるとはいえ、少年院送致はもちろん、救護院・養護施設への送致や保護観察にしても、多かれ少なかれ何らの自由の制限を伴うものであって、人権の制限に渡るものであることは否定しがたい。従って、憲法31条の保障する法の適性手続、少なくともその趣旨は、少年保護事件において保護処分を言渡す場合にも推及されるべきは当然だといわなければならない(最高裁判所第一小法廷昭和58年10月26日決定・裁判官団藤重光の補足意見)と述べられている。また、同補足意見は更に、「憲法37条2項の趣旨は、適性手続の内容の一部をなすものとして、少年保護事件にも実質的に推及されるべきものと考える。」と述べているものであって、憲法37条の刑事被告人の人権もまた、憲法31条の内容の一部として、保護事件の性質に反しないかぎりにおいて、少年にも保障されるものと解すべきなのである。

仮に、審判に不公正な疑いを抱かしめる事由があるにもかかわらず、少年審判規則32条に忌避の申立ての趣旨を読み込むことができないとすれば、その場合当該裁判官が自ら回避を望まなければ、以後は不当な審判を受ける以外になくなるのであって、これではひとり少年のみが憲法37条の保障を受けえないということになる。「公平な裁判を受ける権利」は「保護事件の性質に反しない」どこから、まさに保護事件においてこそ要求されなければならない。

このように、少年審判規則の回避規定は、刑事訴訟法に規定する除斥や忌避の制度を包含するものと解すべきであるから、右規定の実質的内容としては、第1に、「審判の公平について疑いを生ずべき事由がある」場合とは、当然に刑事訴訟法20条の除斥の事由及び同法21条の忌避の事由がある場合を含むのであり、第2に、当事者(少年、保護者及び付添人)からの申立権が認められる趣旨であると解すべきである。

第1の点については、有力な学説は、「『審判の公平について疑いを生ずべき事由』とは、客観的に見て、刑事訴訟法に定める除斥原因・忌避原因に準ずる事情がある場合と解してよいであろう。」と述べている(団藤・森田編、ポケット注釈「少年法」215頁)。

第2の点については、有力な実務上の見解は、「少年保護付添人から忌避の申立てができるかどうかについては、何等の規定もないが、『避けなければならない』との規則第32条の趣旨からして、できるものと解される」としている(東京家庭裁判所少年課長豊田晃著「実務少年法」251頁)。従って、付添人らは、裁判官について、次項以下に詳細に述べるとおり「不公平な裁判をする虞」(刑事訴訟法21条1項)があり、「審判の公平について疑いを生ずべき事由」があるので、ここに付添人らの少年法上認められた権利として忌避の申立てをするものである。

第二審判の公平について疑いを生ずべき事由について

一 裁判官には審判の公平について疑いを生ずべき事由があるので、以下これを列挙する。

二 審判の進行に関する問題点

1 そもそも、本件は本件少年を含む9人の少年らが2人の少女を強姦したという事案である。そして本件少年らは同じ○○町の元暴走族仲間であり、本件犯行は、この少年らの集団心理に生起せられたものというべきである。

したがって、本件においては、一つには示談をどうするかという点においてまた、他方において、右の犯行の背景となった少年らの集団を解体し、少年らの環境を調整するという点においても、集団としての処理、調整が必要である。本件においては、右の観点から付添人らは相互に協力し、示談及び集団的環境調整の方策をとるべく努力を開始した。ところが本件においては付添人が選任されたのが平成元年11月14日であり、少年らの内の最初の審判の予定日(11月17日)には、右の活動の成果が十分に期待できない状態であった。そこで、右の観点から付添人らは平成元年11月16日午後4時頃本件審判官に面会し、その旨を申し述べ、右観点から、11月17日に予定されている少年M・Mの審判において早急に保護処分を決定するのではなく、付添人らの右の諸活動(示談及び集団的環境調整)の結果を踏まえた上で保護処分を決定するように申し入れた。具体的には11月17日の段階では右の示談などが十分できないから、右の諸活動に一定のメドがつき、他の少年らの審判の多数が予定されている11月24日ころ再度審判を開くように申し入れた。

2 しかるにこれに対し、審判官は当初、少年審判は個別事件であるから付添人らが複数で面会を求めてもこれに面会することはできないと面会を拒み、付添人らの抗議によって面会し、右の点について付添人らが審判官にもし入れているのにも、以下のような少年法の理念とはおよそかけ離れた主張を繰り返し、少年の要保護性を重視する少年法を無視しているかのような態度を一貫してとり続けた。

審判官は、あくまで11月17日の審判において少年M・Mの保護処分を決定するとのことであったが、その理由として〈1〉「示談などが間に合わないならば、それで仕方がない。審判時における状況で判断せざるを得ない。」〈2〉「少年の観護措置の期間が11月21日までであるのでそれまでの間に再度審判を開くことはできない。」〈3〉「本件において、観護措置期間終了後、少年を一旦保護者宅に返し、在宅とした上で再度審判を開くことは考えていない。」〈4〉「観護措置には少年の身柄確保の目的もあり、本件のような重大事件においては少年の身柄を鑑別所から出すことはできない。」〈5〉「本件のような重大事案においては、被害弁償をしても処分には影響がない。」〈6〉「環境調整は保護処分の後でも可能であり、環境調整の前に処分が決定してもやむをえない。」などを主張し、さらに付添人らが事情を説明しようとするのに対し「私はまだ十分記録を検討していないから、明日の審判のために記録を検討する必要があり、付添人らとこれ以上話し合うつもりはない。」などとして逃げるように席を立った。

3 しかし、〈1〉及び〈5〉については、本件のような特に被害者の被害感情が重視される非行事実に関して、示談が現に進行中であり、かつ1週間程度でそのめどがつくと言う状況にあるのに、示談を全く考慮しないで保護処分を決定できるものであろうか。非行事実が重大であるから、被害弁償は問題とならないというのでは、被害の可及的な回復をしようとする少年及び保護者の努力を全く無にするものであり、かかる処分が少年の今後の更生にとって障害となろうことは疑いがない。

また〈2〉、〈3〉及び〈4〉については、少年法の理念を没却し、観護措置の制度の理解を歪曲しているものとしか言い様がない。そもそも少年事件においてはできるだけ身柄の拘束を避け、どうしても身柄の拘束を必要とする場合であっても少年に対する悪影響を避けるように努力することが必要である(少年法43条等)また観護措置は本来少年の身柄確保のための制度ではなく、少年の保護処分を決定するための調査、観察を行うための制度である。しかるに本件審判官は観護措置をあたかも刑事訴訟における勾留と同様の制度と捉え、かたくなに少年の身柄を解放することを拒んでいる。そして、少年の身柄を解放しないことを前提として保護処分を決定することがあたかも当然であるという態度をかたくなに続けている。結局本件審判官の右の態度は「本件の如く重大犯罪については少年は逆送ないし少年院送致以外はありえない」という結論を前提として、審判に臨もうというものであって、少年の要保護性を真剣に検討するという少年審判官としての当然の責務を忘却したものと言わざるをえない。本件審判官のかかる傾向は前記〈6〉の発言に如実に現れている。

4 しかもかかる一連の発言は審判官自身自認するとおり「記録を十分に検討していない」状態で為されており、この点などはまさに本件審判官の「始めに少年院送致ありき」の態度のもっとも典型的な徴表である。

三 以上の審判官の態度は少年法の理念を没却し、憲法31条、32条精神を忘却したものであって、本件審判官については、刑事訴訟法21条1項にいう「不公平な裁判をするおそれ」少年審判規則32条にいう「審判の公平に疑いを生ずべき事由」が十分に認められる。

第三結論

よって付添人らは本件審判官の忌避を申し立てる。

以上

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